労災とは
労災(労働者災害補償保険)は、正式名にもあるとおり「保険」です。保険会社に当たるところは「国」になります。労働者(原則雇われている人)が、仕事中や通勤時に事故にあったり病気になり働けなくなった場合に、さまざまな補償をする仕組みです。ただ「労災かくし」といった表現があるように、正しく労災の仕組みが活用されていない場合があるのも残念ながら事実です。労働相談ゲートウェイでは、本来制度に基づき適切な補償を受けられる方が、当たり前に労災を受けられるようサポートを行っております。
労災保険給付の種類
労災保険から給付されるもの(もらえるお金)の種類は数多くありますが、ここでは主な3種類のみご案内いたします。
療養補償給付
療養補償給付は、病院にかかった時の費用をほぼ全額カバーしてくれるイメージです。ちなみに労災指定病院などではじめから「労災で」と伝えれば、立替払いする必要もありません。
休業補償給付
休業補償給付は、労災により仕事を休んだ分の賃金を保障するものというイメージです。労災認定・不認定という表現がよくつかわれますが、この休業補償給付の請求が認められたか否かである場合が多いです。
受給要件
休業補償給付の受給要件は、以下の3点をすべて満たす場合です。
- 仕事上の(通勤中含む)病気やケガによる場合
- 1点めが原因で仕事ができない場合
- 賃金を受けていない
逆にいうと、上の3点のうち1つでも欠けた場合は、それ以降はうけとれなくなります
金額
内容としては、労災で休んでいる時の収入を一部カバーしてくれるものです。いくらもらえるかといえば、支払われる金額はおおむね本来の給料の8割弱となります。(もっと少ない場合もある)
いつまでもらえるか(休業補償給付の期間)については、休業補償給付が以上に書いた受け取れる要件をみたしている場合は支払われ続けますが、上限としては、受けとりを始めてから1年6か月経過した時点で状況が変わらない場合、条件をみたしていれば傷病補償年金に切り替わります。
労災認定までの手続き(申請)の流れ
まず、下記の図が手続の流れ(手順)となります。
本来、被災した労働者自身が請求者となりますので、自分自身で請求(申請)することはもちろん可能です。ただ実際は、会社がその手続きを代わりにやってくれるところも多いです。
必要な書類(請求書に記入欄がありますが)として基本的なものは、①医師の証明 ②事業主の証明 です。(他にも請求される方の状況に応じて別の書類が必要となる場合があります)
ただし、事業主が証明欄に証明をしてくれなくても、労災の請求書を提出することは可能です。
厚生労働省発行リーフレット 労災保険請求(申請)のできる保険給付等より引用
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/index.html
傷病補償年金
傷病補償年金は、休業補償給付を受けていた人が、1年6か月経過した際、以下の要件を満たしていれば、改めて請求手続きをとることなく(とある書類の提出は必要)、労働基準監督署長の判断で受けることができるようになります。
受給要件
- 病気やケガが治っていないこと
- 病気やケガによる障害の程度が、傷病等級表の傷病等級に当てはまること
ちなみにこの「治っていない」は、一般的な意味と全く同じではなく、労災独特の定義に基づきます。大まかにいいますと、(一般的な意味で)治っていなくても治ったことにされる場合(治ゆ・症状固定)があるということです。
金額
元の給料の1日あたり換算額の245日分(3級)~313日分(1級)
他にも、障害補償年金、遺族補償年金、介護補償給付などが、事故にあわれた方、およびそのご遺族に対する補償として用意されています。
労災保険を受けるためには
まずは労災認定を受けることが必要です。なお請求するのは「労働者」です。(決して会社ではありません)
多くの会社が手続きを代行しているので、一見会社が請求しているイメージがありますが、会社はあくまで代行しているだけです。(勤務先には労災手続きについて労働者への協力義務があります)
また、労災を会社が認めてくれない場合は確かにありますが、会社が認めなくても労働者自身が労災請求をすることは可能です。そして労災かどうかを最終的に判断するのは、会社ではなく労働基準監督署です。
労災認定基準
労災認定基準とは
労災の認定には、労災認定基準と呼ばれる国(厚生労働省)が出す文書が判断基準として用いられる場合があります。その代表例が「脳・心臓疾患」と「精神障害」に関する認定基準です。
最近特に目につくのが、長時間労働(過重労働)を原因とする労災請求で、過労死もこの中に含まれます。この場合、この2つの認定基準が用いられることが多く、特に脳・心臓疾患の認定基準については、病気となる前の労働時間の目安が明記されており、それを下回ると労災の認定が難しくなる傾向はありました。
脳・心臓疾患の認定基準
しかし、脳・心臓疾患の労災認定基準が2021年に改正され、すでにそれに沿った労災認定がされているケースがあります。ポイントを簡単にご説明すると、改正前は労働時間が目安に達していないと、それだけで認定されない場合も多かったのですが、「総合的な評価」という表現が認定基準に入ったことにより、「労働時間以外の負荷要因」も含めて判断することが一層明確になり、さらにこの「労働時間以外の負荷要因」の内容や具体例も追加されました(休日のない連続勤務、心理的負荷を伴う業務など)。
精神障害(精神疾患)の認定基準
2023年9月に2011年以来の大改正が行われました。
一方、精神障害(精神疾患という表現が一般的にはよくつかわれますが、労災の場合正式な用語は精神障害ですので、以降精神障害で統一いたします)の労災認定基準は、長年2011年に決められた認定基準が用いられてきました。精神障害の場合はもともと労働時間のみが基準ではなく、「心理的負荷」という概念を設けその強弱で判断するという形をとっており、以前から「総合的な評価」がなされています。そして2020年には、パワハラを要因として明記するために認定基準が見直されました。すでに、その基準見直しをふまえたような、労災を認めなかった労働基準監督署決定の取消しを命じる裁判所の判決も出ています。パワハラについては、従来も労災認定されなかったわけではありませんが、行政が示す基準は、裁判結果にも大きな影響を与えることがあるということがいえます。
そして、2023年9月に2011年以来となる大改正が行われました。
精神障害の労災認定基準概要
1)精神障害の労災認定要件3点
①認定基準の対象となる精神障害かどうか
②業務による強い心理的負荷が認められるかどうか
③a業務以外の心理的負荷による発病かどうか
b個体側要因による発病かどうか
◆認定基準の対象となる精神障害かどうか
ICD-10という国際的な定義の「精神および行動の障害」に分類される精神障害(一部除く)
代表例は、うつ病、急性ストレス反応
◆業務による強い心理的負荷が認められるかどうか
認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められるかどうか
別表1「業務による心理的負荷評価表」により「強」と評価されること
他に「中」「弱」があるが、「中」「弱」と評価されたら労災として認定されない
1 「特別な出来事」に該当する出来事がある場合
⇒もれなく「強」
2 「特別な出来事」に該当する出来事がない場合
以下の手順により、出来事と出来事後の状況の全体を検討し総合評価を行い、心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」と評価
①別表1の「具体的出来事」に当てはめる
②当てはめた「具体的出来事」の強度で評価
③出来事が複数
関連して生じた場合→1つの出来事とする
関連しない→全体を総合的に評価
例)中+中→強はあるうる
例)長時間労働がある場合の評価
1)特別な出来事として(→つまり「強」)
発病直前1か月におおむね160時間以上
発病直前3週間におおむね120時間以上
2)別表1「具体的出来事」に基づく評価
発病直前2か月連続しておおむね120時間以上
発病直前3か月連続しておおむね100時間以上 等
3)恒常的長時間労働が認められる場合の総合評価
1か月おおむね100時間の時間外労働がある場合、
心理的負荷の強度を修正する要素として評価
◆評価期間の留意点
発病前おおむね6か月 ただし、ハラスメント・いじめ等もしくはその出来事が継続している場合は、6か月以上前でもその起点から評価
業務以外の心理的負荷による発病かどうか
個体側要因による発病かどうか
いずれも、それが認定されれば、業務上の理由より業務外の理由により発病しているということで、労災認定されない
2023年9月に改正された心理的負荷による労災認定基準
◆今回の見直しのポイント
①業務による「心理的負荷評価表」の見直し
②精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲の見直し
③医学意見の収集方法の効率化
◆ポイント① 業務による「心理的負荷評価表」の見直し
心理的負荷評価表とは認定基準の「別表1」のこと
具体的な出来事を例示列挙し、それが心理的負荷の強度で強・中・弱のどれに当たるのかを記している
基本「強」に該当しないと労災認定されない
心理的負荷評価表の一例(パワハラ)
①具体的出来事の追加、類似性の高い具体的出来事の統合等
・パワハラの6類型すべての具体例、性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含むことなどを明記。
・ 一部の心理的負荷の強度しか具体例が示されていなかった具体的出来事について、他の強度の具体例を明記
→明記されていると、労災が否か判断しやすくなる
②以下の2点が追加
・いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)について
・感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事
◆ポイント② 精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
【改正前】悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がなければ業務起因性を認めていなかった
【改正後】悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したと医学的に判断される場合には、悪化した部分について業務起因性を認める→大きく今後の認定作業が変わる可能性
◆ポイント③ 医学意見の収集方法を効率化
【改正前】専門医3名の合議による意見収集が必須な事案
【改正後】特に困難なものを除き専門医1名の意見で決定できるよう変更
上記のように、主治医意見の他に専門医による医学的意見の収集を必須とする範囲等を見直したことで、 労災決定までの期間を短縮できる事案の増加が見込まれる
労災認定基準と裁判
労災認定基準に対する司法側の考え方
①労災認定基準は、あくまで役所内部の決め事であり、司法がそれに拘束される必要はない、というのが裁判所の基本的な考え方。実際、労働他分野にて同じ役所内部の決め事であるガイドラインとは異なる判断が下ったこともある
②しかし、労災認定基準については、労災の認定不認定そのものを争った事案のほか、安全配慮義務違反を問う損害賠償請求の事案においても(例えばパワハラと事案との相当因果関係を考える際に)、ほとんどの場合参考とされているといってよい
①脳・心臓疾患に係る業務起因性の有無については、認定基準の内容を参考にしつつ、個別具体的な事情を総合的に考慮して判断するのが相当である(上野労基署事件 令和4年10月21日判決)
②業務による心理的負荷と本件疾病の発病との間に相当因果関係があることが必要である。認定基準は十分な合理性を有するものといえ、その認定要件等を踏まえて、業務起因性の有無について検討する(笠岡労基署長事件 令和4年3月30日判決)※認定基準を合理性があると認めている
③認定基準は、心理的負荷の評価の対象を、発病前おおむね6か月の間に生じた出来事としているが、本件店舗への異動から本件疾病の発病までの期間は、8か月半ほどであり、上記の対象期間と大きく乖離しているとはいえない(笠岡労基署長事件 令和4年3月30日判決)
※認定基準の「6か月」概念をそのままつかって判断している
④危険が現実化したといえるかは、厚労省が作成した認定基準に照らし、環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性とを総合考慮し、当該労働者と同程度の年齢、経験を有し、日常業務を支障なく遂行することができる労働者を基準として、社会通念上客観的に見て、精神障害を発病させる程度に業務による心理的負荷が強度であるといえるかによって判断する(天満労基署長事件 令和4年6月15日判決)
新基準と旧基準、どちらを採用するか
例えば過労死関連だと、
脳・心臓疾患の認定基準は2021年9月
精神障害の認定基準は2023年9月
に改定されている
基本的には法令というものは、直近で改正が行われたとしても、その事案の発生時に適用となっていた法令が適用となるのが通例。しかし、労災認定基準については、必ずしもそうではない
本件は旧認定基準に基づき処分されたが、本件処分後に発出された新認定基準は、より最新の医学的知見を踏まえて作成されたものだから、原則として新認定基準の内容を参考とし、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合考慮して業務の過重性を判断する(上野労基署事件 令和4年10月21日判決)
新認定基準が定められたことを受け、審査請求や提訴段階で、労基署側が、旧基準に基づく労災不認定決定を取り消し労災認定した事例も存在する 例)三菱ふそう事件 京都下労基署 令和4年6月認定
建設アスベスト給付金
アスベスト(石綿)による働く人の健康被害については、これまでも救済の仕組みはありましたが、2022年に「建設アスベスト給付金」という新たな救済の仕組みが設けられました。
①概要
アスベスト(石綿)にさらされる建設業務のうち、今回指定された業務で特定の期間働いていて、それらが原因でアスベスト(石綿)に関連した病気にかかり被害をうけた方が対象となります。(期間は昭和47年10月から平成16年9月の間で、業務によって異なります)
②手続き・金額
通常の労災保険請求は労働基準監督署が窓口ですが、建設アスベスト給付金については厚生労働省に専用窓口が設けられており窓口はそこのみとなります(郵送受付のみ)。認定されれば、状況などにより550万円から1300万円受け取ることができます。
③注意する点
通常の労災と同じく請求期限があります。また数多くの種類・量の関係書類の提出を求められることが多くあります。
なお、事前に労災認定を受けられた方については、請求手続きが簡素化されています。
サポート内容
1)休業(補償)給付などの請求手続き代行
ほとんどの方は労災の請求書を書かれたことなどなく、記入だけでもひと苦労だと思います。その作成サポートを行っています。例えば精神障害の労災認定については、先にご説明した認定基準に沿った内容で請求する必要があり、各種証明書類もあわせて必要となります。どのような書類が必要か、請求後の労働基準監督署からの確認対応も含めてサポートいたします。
2)労災認定後の健康保険などとの精算手続き代行
仕事中にケガをされた場合でも、まず健康保険を使って支払われる方は大勢いらっしゃいます。無理からぬことですが、健康保険をつかえる性質のものではないため、返還などの手続きが必要です。この一連の手続きをサポートいたします。
3)労災が認定されなかったなど希望どおりでなかった場合のサポート
請求した労災保険給付が認められなかった場合(労災がもらえない、おりない)など、審査請求という不服申立てを行える場合があります。障害年金の審査請求と仕組みはほぼ同じです。その手続きなどのサポートを行っております。
4)建設アスベスト給付金の請求手続き代行
通常の労災保険請求のサポートと同じイメージですが、添付する書類として、数多くの種類・量が求められていますので、社会保険労務士に一度ご相談されることをおススメいたします。
その他、労災に関することでしたらなんでもご相談ください。
サポートの流れ
(休業補償給付初回請求の場合)
お問合せ・ご相談方法はTOPページをご覧ください。なおご相談は初回無料です(50分程度)。
請求書には事故にあわれた時の状況を詳しく書く欄があり、きわめて重要なポイントであるため、詳しく状況をうかがいして請求書を作成するうえでの材料とさせていただきます。
②でうかがった内容を盛り込むなどして請求書を作成いたします。また必要な添付書類があればそれを集めたり作成したりするサポートもあわせていたします。
提出は郵送でも可能です。
その対応
労働基準監督署から請求内容について確認がある場合があります。
認定から1,2週間程度で振り込まれます(標準ケースの場合)。
サポート料金(税込み)
ご依頼内容によっては事前相談のうえ変更の場合があります。また載っていないサポート内容についてはご相談ください。
原則成功報酬制です。不成功の際はかかった郵送代、必要書類取得手数料など実費分のみご負担ください。
ご依頼内容 | 料金 | 備考 |
---|---|---|
休業補償給付の請求 (請求に係る手続きすべての場合) | 支給決定額30日分の10% ただし、脳・心臓疾患、精神障害の判定基準に関わる請求については、支給額30日分 | 脳・心臓疾患、精神障害の判定基準に関わる請求については、着手金はいただきませんが、預り金を3~5万円程度お預かりいたします |
健康保険との精算 | 5万円 | |
審査請求など不服申立て | 支給決定額の45日分 | 休業補償給付の場合 |
建設アスベスト給付金の請求 | 労災認定ある場合 支給決定額の4% 労災認定ない場合 支給決定額の8% | 着手金はいただきませんが、預り金を3~5万円程度お預かりいたします |
よくあるご質問
- 労災に関するどこに請求や相談をすればいいですか?
職場のある住所を担当している労働基準監督署という役所です。
- いくらもらえますか?
休業補償給付の場合、おおむね元の給料の8割弱です。(もっと少ない場合もあります)
- どれくらいで受け取れますか?
休業補償給付の場合、公式には、請求から決定まで1か月、ただしそれ以上時間がかかる場合もあるとあります。明らかに仕事が原因と分かればすぐに決定しますが、そうでない場合は調査などに時間がかかるということです。
- 労災保険の給付金に税金はかかりますか?
かかりません(非課税です)。
- 労災保険の給付金はどのような形で受け取れますか?
原則、銀行振込です。
- 労災保険には時効(請求期限)はありますか?
あります。時効(請求期限)を過ぎてしまった場合は、本来労災が認められる状態であったとしても受け取れなくなりますので、お早目の請求をおススメします。
- 労災保険の認定はインターネットで申請できますか?
次第にインターネット経由での申請(電子申請、オンライン申請)ができるものは増えていますが、労災保険の請求は未対応で、できません。
- 会社にこの程度のケガは労災にならないし申請もしないと言われてしまいました。泣き寝入りするしかないですか?
そのようなことはありません。労災の請求をするのを決めるのも会社ではありません。請求するのは働く人、決めるのは労働基準監督署です。
- 労災認定は、どれくらいの割合でされていますか?
病気の場合、その種類にもよりますが、おおむね3割前後からほぼ10割の間です。
- 勤め先が労災に入っていないのですが請求できますか?
今、労災に入っていなくても労災の請求はできますのでご安心ください。(労働者を雇っている場合、手続きをしていないだけという扱いになりますので、労災保険関係はすでに成立しているとの解釈であるため)