判決文を読んでいないのであくまで新聞記事の範囲内の情報に憶測が混ざっています。
運転士が年休(そもそもこの年休という表現がJRらしい。ここは一般的には割と有休と表現する方が多いのではないか?)を取る場合、その月の年休希望は前月20日までに申請する。ただ実際取れるかどうかは勤務日の5日前まで確定せず取れない場合もあった。
順番にまとめていくと、
・まず、運転士(乗務員)のシフトなので、いわゆる1か月変形が採用されていると想定され、このシフトは事前に定まっている必要はある
・その事前提示されているシフト予定に対し年休希望を出していくが、あくまで法的には○日前までに確定しなければならない、という法的規定はなく、それだけではただちに違法とはいえない
・しかしながら判決では、社員が申し出てから相当期間後に希望を変更させる運用は「合理的な期間を超え、労働者の利益への配慮に反する」として、いわゆる社会通念上の問題を指摘している
・上記とは別に、いわゆる時季変更権の適用の是非についても触れており、今回のケースでは会社側の時季変更権を認めるまでの状況とはいえないと判断している
時季変更権
この「事業の正常な運営を妨げる場合」という表現にあらわされるいわゆる時季変更権については、これまでも繰り返し裁判で争われてきており、会社側の時季変更権が認められる範囲は非常に狭い。
ヤフコメなどみてると、「じゃあみんなが年末年始に休み申請したらどうなるんだよ」といった子供じみたコメントまであったが、さすがにそういった場合は、時季変更権は認められるであろう。ポイントは、たとえば100人いる部署だったら○人までなら年休は認められるがそれ以上は時季変更権の行使は容認されるか否かという点、それもAという状況だったら10人までだが、Bという状況だったら5人までだろう、はたまた、他の社員に残業・休日出勤要請をしたか(つまりやれるだけの手は全部打ったか?)といったように、個々の状況ごとに個別具体的に検討されるべき性質のものであり、単純に決められるものではない。(おそらく判決文にはこの辺りのことが詳しく書かれていると思われる)
ただ今回の判決が斬新なのは、上記の時季変更権についても検討はされたが、それ以上に「年休を決める会社側の制度自体の妥当性」が争われたということ。新聞記事には詳しく書かれていないが、この年休申請をした運転士たちも時季変更権で違う時期には年休を取れただろうから、今回は賃金未払いといった労基法違反の問題ではなく、この請求が認められた額というのは、おそらく精神的苦痛に対する損害賠償請求が認められたということだろう。
裏を返せば、このくらいの慰謝料を払ってしまえば年休を認めなくてもよいのか、という話にもつながりそうな気もするが、やはりそれ以上に企業イメージに与える影響があまりよろしくない気がします。ただJR東海の運転士って相当もらってるんですけどね。(だから人気企業でもある)
旧国鉄の時は最大需要にあわせて要員が決められていました。だからふだんは人も余っていたし年休もたっぷりとれたそうです(その辺の事情は、少しだけ今月日経に連載されていたJR九州相談役の私の履歴書にも書かれていましたね。みんなでソフトボールしたとかなんとか)。しかし、それが大赤字の一因にもなったということで、JRになったときに、繁閑差に対しては超勤で対応するといったように基本姿勢が変更になりました。ある意味国鉄改革の柱の1つであり、国鉄改革の象徴ともいえるJR東海が即日控訴したのも分かる気はします。自らのアイデンティティーにもかかわることですから。
あとはこの年休を決めるシステムが、同じ民間企業といっても、インフラの1つである鉄道会社社員にも同じように適用されてよいものかという論点もあると思います。つまり、公益性の高い企業なのだから、ぎりぎりまで年休が取れるかどうかわからなくても、社会通念上やむを得ないと判断されるか否か。これもまた判決文などみていないので分からないのですが、JR側がどれくらいこの点について主張しどう裁判官が判断されたかも気にはなります。