「会社のルール」より「法律のルール」が上――就業規則の読み方講座

目次

はじめに

「うちの会社のルールではこうなっています」
職場でこんな言葉を聞いたことはありませんか?

でも、その“会社のルール”は本当に正しいのでしょうか。
実は、日本の労働法の仕組みでは――
会社がつくるルールより、国が定めた法律が優先されるのです。

私は労働相談の現場で、「会社の規則だから仕方ない」と諦める人を何人も見てきました。
けれど、その多くは「本当は違法なルール」や「書き方のトリック」に気づいていなかっただけなのです。


第1章 “会社のルール”がすべてではない

就業規則は、会社と労働者の約束を明文化したもの。
でも、それは法律の範囲内でしか効力を持たないという原則があります。

たとえば――

  • 法律では年次有給休暇は「6か月勤務で10日」付与と定められています。
     ➡ 会社が「1年経たないと有休なし」と書いても無効です。
  • 法律では残業代は「25%以上の割増」。
     ➡「残業代込みの給料」と書かれていても、明確な根拠がなければ違法です。

就業規則は「法律の上書き」ではなく、「法律の下での細則」にすぎません。


第2章 就業規則には“会社側の都合”が隠れている

ほとんどの会社がインターネットから“テンプレート”を拾って作成しています。
だからこそ、「本気で読まれることを想定していない」文面が多いのです。

よくある例として――

  • 「賞与は会社の業績および個人の成績により支給することがある」
     → “ある”と書いてあるだけで、出さなくても違法ではない。
  • 「退職金は会社が定める基準により支給する」
     → “基準”が非公開なら、ブラックボックスと同じです。

「書いてある=守られる」とは限りません。
就業規則は、読む人の力で初めて“契約”として機能するのです。


第3章 “読む力”が自分を守る

実は、就業規則を読んでいる労働者は2割にも満たないといわれます。
しかし、私の経験上、トラブルを未然に防げた人は例外なく“読んでいた人”です。

チェックすべき3つのポイント:

  1. 休暇・休職の扱い(病気で休んだらどうなるか)
  2. 賃金の構成(手当の定義があいまいでないか)
  3. 懲戒・退職の条項(どんな行為で処分になるか)

これらを一度でも読んでおけば、
「そんなルール聞いてない」「知らなかった」がなくなります。


第4章 社労士が見た“おかしな規則”のリアル

実際にこんな規則がありました。

  • 「社長の指示には無条件で従うこと」
  • 「遅刻3回で懲戒解雇」
  • 「上司への反抗的態度を理由に減給することがある」

どれも法的には“無効”です。
けれど、従業員が知らなければ、それが“現実”として通ってしまう。

制度が悪いのではなく、知らないことが一番のリスクなのです。


おわりに

“会社のルール”はすぐに変えられなくても、
“自分の理解”は今日からすぐに変えられる。

法律を敵にするのではなく、味方にする。
その第一歩が、「就業規則を読む」という行為です。
就業規則は、従業員であれば誰でも読める状態になっていなければなりません。

あなたが働くその場所のルールを、
ぜひ一度“自分の目”で確かめてみてください。

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