ある日、上司からこんな言葉を投げられます。
「正直言って、この仕事、あなた向いてないよね」
言われた側は、一瞬で分からなくなります。
- これは指導なのか
- 評価なのか
- それとも、もう見切られたという意味なのか
この一言は、
労使トラブルの“入口”になりやすい危険な言葉です。
ただし、
言われた=即アウト
という単純な話でもありません。
① この言葉は、法律用語ではない
まず大前提として、
「向いてない」という表現は、法律用語ではありません。
- 就業規則に書いてあるわけでもなく
- 評価基準でもなく
- 懲戒理由でもない
極めて主観的な表現です。
だからこそ、
その言葉が
「指導」なのか
「不適切発言」なのかは、
文脈で判断するしかない。
② 指導として“成立しうる”ケース
実務上、
この言葉が指導の一部として扱われることもあります。
例えば、
- 具体的な業務内容を示した上で
- 何ができていないかを説明し
- 改善方法や支援策が提示され
- 今後の期待がセットで語られる
その中で、
「今のやり方だと、この仕事は向いていないように見える」
といった形で使われるなら、
ギリギリ指導の文脈に入ります。
重要なのは、
「向いてない」で終わっていないことです。
③ アウトに近づくのは、こういう使われ方
問題になるのは、次のような場合です。
- 具体的な業務指摘がない
- 改善策が一切示されない
- 繰り返し人格評価として使われる
- 他の社員の前で言われる
- 面談の結論がこの一言で終わる
この場合、
それは指導ではありません。
評価でもなく、ただの切り捨てです。
法的には、
- パワーハラスメント
- 不当な人格否定
- 就業環境悪化行為
と評価される余地が出てきます。
④ 「能力評価」と「人格評価」は別物
会社はよく、こう言います。
「能力の話をしているだけです」
しかし、
能力評価と人格評価は別です。
- 「この業務でミスが多い」→ 能力評価
- 「この仕事向いてないよね」→ 人格寄り評価
後者は、
改善可能性を示していない。
評価として成立させるなら、
- どの業務の
- どの点が
- どの水準に達していないのか
ここまで落とし込まなければ、
指導とは言えません。
⑤ この言葉が“準備”として使われることもある
実務で注意すべきなのは、
この言葉が
配置転換・退職勧奨の前振り
として使われるケースです。
- 向いてない
- 合っていない
- 他に合う場所があるかも
こうした言葉が続き、
- 業務を外される
- 雑務が増える
- 面談が増える
この流れに入ったら、
**指導ではなく“選別”**の可能性を考えるべきです。
⑥ 言われた側がやりがちな間違い
この言葉を受けたとき、
多くの人が次の行動を取ります。
- とにかく謝る
- 自分を全否定する
- 「向いてないなら辞めます」と言う
どれも、
相手の言葉を過大評価しすぎです。
「向いてない」は、
会社の正式な判断でも
確定評価でもありません。
⑦ 実務的にやるべき対応はシンプル
感情的に反論する必要はありません。
聞くべきなのは、これだけです。
- どの業務についての話か
- 何が足りていないと考えているのか
- 改善のために何を求めているのか
この質問に
具体的な答えが返ってくるか。
返ってこなければ、
それは指導ではありません。
⑧ 記録を残す意味
この手の発言は、
後から「言っていない」とされやすい。
- いつ
- 誰から
- どんな文脈で
- どう受け取ったか
メモで十分なので、
必ず残すこと。
争うためではなく、
自分の認識を守るためです。
⑨ 「向いてない」は、会社の便利な言葉でもある
正直に言えば、
「向いてない」は
会社にとって非常に便利な言葉です。
- 具体性がいらない
- 責任を取らなくていい
- 後で意味を変えられる
だからこそ、
言われた側が
そのまま受け取ってはいけない。
⑩ 最後に──問題は“言われたこと”ではない
一番大事なのは、ここです。
問題は、
「向いてない」と言われたこと
そのものではありません。
- その後、何が起きるか
- 説明や支援があるか
- 評価や配置がどう変わるか
そこに、
指導か、アウト発言かの答えが出ます。
この一言で、
自分を決めつける必要はありません。
判断すべきなのは、
言葉ではなく、その後の扱いです。
