はじめに
「会社の中では誰にも言えませんでした」
ハラスメントの相談を受けると、ほとんどの方がこう口にします。
上司からの暴言、同僚による無視、過剰な監視や指導。
誰かに打ち明けたいと思っても、
**「職場で相談したら立場が悪くなるのでは」**という不安が先に立つ。
結果、体調を崩してから外部にたどり着く人が後を絶ちません。
でも、どうか知ってください。
“職場の外で相談する”ことは、逃げではなく、守るための戦略です。
第1章 社内相談が“理想的”でも“現実的”でない理由
厚労省の指針では、すべての企業に「ハラスメント相談窓口」を設けることが義務づけられています。
しかし現場を見ると、次のような問題がよく起きています。
- 相談窓口が実質的に上司や人事部しかいない
- 加害者と同じ部署に窓口担当がいる
- 相談内容が社内に広まってしまう
- 「あなたにも非があるのでは?」と言われて終わる
つまり、“内部”で相談すること自体が心理的リスクになるのです。
特に中小企業では、ハラスメント相談=会社への“告発”と受け止められやすく、
相談者が「問題児扱い」されるケースも少なくありません。
「社内で言えない」は、弱さではなく、“職場構造の問題”です。
第2章 “外”で相談すると何が違うのか
外部機関への相談には、3つの大きなメリットがあります。
① 第三者の目で「整理」できる
感情の渦中にいると、
「どこまでが指導で、どこからがハラスメントなのか」わからなくなります。
外部の相談員・社労士・労働局職員などは、
客観的に事実を聞き取り、法的・制度的な視点で整理してくれます。
② 記録が“証拠”になる
労働局などの公的機関に相談すれば、
相談記録が残ります。
これは、後にあっせんや労基署の調査につなげる際に有効な“初期記録”になります。
③ 匿名・無料で話せる
労働局、自治体の男女共同参画センター、弁護士会などでは、
匿名でも無料で相談できる窓口が整備されています。
「名前を出さずに相談したい」というニーズにも対応しています。
“外に出る”ことで、安心して“自分の言葉”を取り戻せるのです。
第3章 「外で相談する」ための具体的なルート
■労働局・総合労働相談コーナー
全国379か所。ハラスメント・解雇・未払い等を無料で相談可能
■自治体 男女共同参画センター、労働相談室
性的・パワハラ両方に対応。女性相談員も常駐
■専門士業 社会保険労務士・弁護士
書面整理・交渉助言・あっせん代理など実務支援
■民間支援 NPO・ユニオン
同伴やメンタルサポートもあり
外部相談をすると、必要に応じて
「会社と話すための準備」や「証拠の整理」も支援してもらえます。
“外”で話す=“一人で抱えない”という選択。
第4章 “外部相談”は「対立」ではなく「調整」
多くの人が誤解しています。
外で相談すること=会社を訴えること、ではありません。
実際には、
- 状況を整理して「どう動くか」を決める
- 記録を残して将来のリスクに備える
- 必要なら労働局の「あっせん」につなげる
という流れです。
特に労働局のあっせんは、弁護士を立てずにできる「話し合い型」解決制度。
“裁判”ではなく“調整”です。
会社を敵に回すのではなく、自分の安全距離を確保するための制度だと理解しておきましょう。
「対立ではなく調整」。
それが“外部相談”の本当の役割です。
第5章 相談する勇気が、未来を変える
ハラスメント被害の多くは、
「誰にも言えなかった」という孤立から深刻化します。
外部に相談した瞬間、
- “これはおかしい”と誰かが言ってくれる
- “あなたの感じたことは間違っていない”と認めてもらえる
それだけで、状況は確実に変わります。
制度や法律は、その次に使えばいい。
まずは、あなたの声を“職場の外”に届けること。
それが、回復の最初の一歩です。
相談することは、戦うことではありません。
“自分を守る行動”です。
