はじめに
「残業代をちゃんと払ってもらいたい」
――ただ、それだけのことを言っただけなのに、
職場での空気が一変した。
「細かい人だと思われる」
「上司の態度が冷たくなった」
「居づらくなって、自分から辞めた」
そんな相談を、これまで何度も受けてきました。
でも、はっきり言います。
残業代を請求することは、わがままでも反抗でもありません。
法律に基づく、正当な権利の行使です。
そして、その後に「居づらくなる」ような対応をされることこそ、
実は“違法”の可能性があるのです。
第1章 「残業代を請求する=トラブル」ではない
まず知っておきたいのは、
残業代を請求すること自体は、会社にとっても想定済みの行為だということ。
なぜなら、労働基準法では「未払い残業代の請求権」が明確に定められています。
- 時効は3年
- 請求は退職後でも可能
- 労働基準監督署に申告できる
つまり、制度として“支払い漏れが起こる”ことを前提に、
後から是正できる仕組みが用意されているのです。
にもかかわらず、現場では「請求=裏切り」と見なされる。
それは、制度の問題ではなく、職場の風土の問題です。
第2章 「請求したら嫌がらせを受けた」――それは“報復行為”です
もし残業代を請求した後に、
- 配置転換・左遷
- 無視や嫌がらせ
- 退職勧奨や降格
などを受けたとしたら、それは「報復行為」にあたります。
労働基準法・労働契約法・労働施策総合推進法(パワハラ防止法)など、
複数の法律で**「権利を行使したことを理由とする不利益取扱い」**は禁止されています。
「請求されたから態度を変える」は、立派な法違反です。
特に、労働施策総合推進法では、
企業に「相談した人を守る義務」が課されています。
つまり、あなたが声を上げた瞬間から、会社はあなたを“保護する側”に回る義務を負うのです。
第3章 「居づらくなった」ときに使える3つの制度
それでも、実際には「会社に居づらい」という現実があります。
そのときに使える“公的な制度”を3つ紹介します。
① 労働基準監督署への申告
「残業代が支払われない」「嫌がらせを受けた」
→ 監督官が会社に立入調査・是正勧告を行うことができます。
匿名での申告も可能で、直接交渉を避けたい人に適しています。
② 労働局の「あっせん制度」
裁判にしなくても、第三者が間に入って話し合う公的制度。
「お金を払ってもらいたいけど、弁護士までは…」という人に最適です。
特定社会保険労務士が代理人としてサポートできます。
費用は無料です。
(強制力はありませんが、実際には多くの会社が応じます。)
③ ハローワークの「離職票の理由訂正」
もし、退職時に「自己都合退職」にされてしまっても、
「会社の対応に原因がある」と認められれば、
“会社都合退職”への訂正を申請できます。
これにより、失業給付がすぐ支給されるなど、実際の生活にも大きな差が出ます。
第4章 「波風を立てない方法」は“準備”にある
「でも、やっぱり職場で波風を立てたくない…」
――その気持ちも、痛いほどわかります。
その場合は、“証拠を静かに集める”ことがポイントです。
- タイムカードや勤怠記録
- メール・LINE・シフト表
- 出退勤時のスクリーンショット
これらを自分で保管しておくだけでも、後の証明になります。
“声を上げる”ことと“準備を整える”ことは別。
波風を立てずに動くためには、静かな証拠が一番の味方です。
第5章 「正しいことをした人」が守られる社会へ
残業代の請求は、わがままではなく、制度の運用そのもの。
でも、現実には「空気」に負けてしまう人が多い。
だからこそ、社労士や公的機関が存在します。
あなたの声を、制度の言葉に変える人たちです。
“正しいことをした人が損をしない社会”
そのために、制度があり、専門家がいます。
おわりに
「残業代を請求したら居づらくなった」――
そのとき一番大切なのは、「自分が間違っていない」と知ることです。
制度は、あなたの味方です。
あなたが静かに準備をし、正しい手続きを踏めば、
会社は必ずそのルールに従わなければなりません。
“声を上げる”ことは、争うことではなく、
“自分を守る”ための正しい行動です。
