はじめに
「有給を申請したら、上司が嫌な顔をした」
「“この忙しい時期に?”と言われて、結局取れなかった」
「制度として取れるのは分かるけど、空気的に無理」
こうした相談は、労働トラブルの現場で非常に多いものです。
でも、結論から言います。
“有給を取ると嫌味を言われる”職場は、制度違反です。
有給休暇は「遠慮して使うもの」ではなく、
会社に“お願い”するものでもありません。
これは、労働基準法で明確に認められた 「権利」 です。
第1章 有給は“会社が許可するもの”ではなく、“労働者が指定できるもの”
多くの人が誤解していますが、
有給の本質は 「労働者の指定権」 にあります。
法律ではこう定められています。
- 労働者は “取得したい日” を指定できる
- 会社はその申請に対し、原則として拒否できない
この2点は、労働基準法で明確に規定されています。
つまり、
あなたが「この日に休みます」と言えば、それが基本的に通る。
「その日は困る」と言えるのは、会社側に“例外理由”があるときだけ。
その“例外”が、次章の「時季変更権」です。
第2章 会社にあるのは「拒否権」ではなく「時季変更権」だけ
会社が有給を断れるのは、
たった1つ、法律で認められた場合のみです。
それが 「時季変更権」。
内容を簡単に言うと――
その日に休まれると “会社の業務が著しく妨げられる” ときだけ、
会社は別の日に変えてもらうことができる。
これが全てです。
ポイントは次の通りです。
✔「忙しいから」「人が足りない」は理由にならない
「忙しい」「繁忙期」は、業務の性質として予見可能。
法的には、時季変更権の理由として弱い。
✔ 人手不足・シフト調整の失敗は“会社の責任”
それを理由に有給を取らせないのは 違法。
(厚生労働省の通達にも明記)
✔「休むと他の人に迷惑」は、労働者側に関係ない
迷惑がかからないように体制を整える義務は“会社側”にある。
時季変更権は「例外の例外」。
99%のケースでは、会社は拒否できない。
第3章 “嫌味を言う・圧をかける”は、実は重大な問題
有給取得を巡るトラブルの多くは、
法律違反が表に出るのではなく、
職場の“空気”や“心理的圧力”として現れます。
- 「また休むの?」
- 「この時期に言う?」
- 「みんな頑張ってるのに…」
こうした言葉は、軽く見てはいけません。
厚生労働省は、
「有給取得を妨げる嫌がらせ・圧力」も不適切な扱いであり、
会社には是正義務がある
と明確にしています。
場合によっては、
パワハラ(業務上必要な範囲を超える嫌がらせ)
にも該当します。
第4章 “年5日の取得義務”を会社は守らなければならない
2019年から、法律が変わりました。
- 10日以上の有給がある労働者には、
年5日の取得を会社が確実に取らせる義務 がある
つまり、
会社はあなたに有給を取らせる義務がある。
嫌味を言われるどころか、逆に“取らせなかったら会社が罰則”です。
これは違法とわかっていて取らせない会社がまだ多いのが現実。
だからこそ、「制度を知っている労働者」は強いのです。
第5章 現場で使える“角の立たない伝え方”3つ
権利だからと言って、
あえて対立を生む必要はありません。
現場で使える“穏やかな伝え方”を3つ紹介します。
① 「法律に基づいて、有給を取得したいです」
→ 感情ではなく制度として伝える。
→ 主語を“私の希望”ではなく“制度”にするだけで角が立ちにくい。
② 「引き継ぎは事前に対応します」
→ 業務への配慮を示すことで、相手の心理的抵抗を軽減。
③ 「当日は連絡が取れるようにしておきます」
→ 完全に義務ではないが、職場との信頼関係が保ちやすい。
“権利の主張”+“業務配慮” のセットが、
トラブルを最小限にします。
第6章 嫌味・圧力が強いときに使える制度
① 労働基準監督署に相談
→ 有給取得妨害は法律違反。
→ 会社に是正指導が入ることもある。
② 労働局(均等室)に相談
→ 嫌味・圧力がパワハラに近い場合はこちらが適切。
③ 特定社会保険労務士による“あっせん”
→ 人間関係を悪化させずに解決したい場合に有効。
→ 裁判のような負担はない。
おわりに
「有給を取ると嫌味を言われる」
――それは、あなたが悪いのではありません。
制度を知らない会社、
または制度を軽く見ている職場の問題です。
有給は遠慮して使うものではなく、法律で守られた“権利”です。
あなたが権利を知っていれば、空気に負ける必要はありません。
嫌味を言われたら、それは制度違反。
あなたは、正しい側です。
