はじめに
「心がしんどくて、会社に行けなくなった」
「迷惑をかけるくらいなら辞めたほうがいいのでは……」
そんな気持ちで相談に来る方は、本当に多いです。
でも、はっきりお伝えしたいことがあります。
休職は“迷惑”ではありません。
そして、あなたを支える制度はすでに用意されています。
心の不調は“甘え”ではなく、きちんと治療が必要な状態。
その治療期間を支えるために、社会保険は存在しています。
この記事では、
「休職したときに使える支援」
「復職までの流れ」
「辞めても続く保障」
をやさしく整理します。
第1章 休職は“悪いこと”ではない――法律から見ると“正当な選択”
メンタル不調で働けない状態が続く場合、
会社はあなたに 「休職」 を認めることができます。
休職は、
- 会社に在籍したまま
- 仕事を一時的に離れ
- 治療に専念する期間
です。
そして、ここがポイントです。
「迷惑をかけるから辞める」は、あなたの責任ではない。
メンタル不調は“業務外の傷病”であり、
労働者の責めに帰すべき理由ではありません。
会社側には、
- 就業規則に基づいて休職を認める義務
- 復帰に向けた配慮義務
があります。
まずは「辞めなきゃ」という思い込みを捨て、
「治す期間が必要なんだ」 と捉えることが大切です。
第2章 休職中のお金を支える「傷病手当金」
休職中に最も不安になるのが“収入”です。
しかし健康保険には、休業中の生活を支える制度があります。
それが 「傷病手当金」。
■ もらえる条件
以下の4つすべてを満たす必要があります。
- 病気・けがで働けない
- 給与が支払われていない(または一部のみ)
- 医師の「労務不能」の証明がある
- 健康保険に加入している
■ いくらもらえる?
標準報酬日額の 約3分の2 が支給されます。
例:月収30万円なら、月約20万円前後。
■ どれくらいの期間?
最長1年6か月。
■ 休職中でももらえる
あなたが無給で休職している期間は、
すべて傷病手当金の対象です。
■ “働けない” の基準は「医師の判断」
あなたがどう感じるかではなく、
医師が「働けるかどうか」を判断します。
第3章 復職は“急に職場へ戻る”のではない
――段階を踏んで進めるのが普通です
復職の相談をしていると、
「明日から100%で戻らなきゃいけない」と思い込んでいる人が多いです。
しかし、復職は 段階的に行うのが原則。たとえば、
① 主治医が「復職可能」を判断
→ ただし「時短なら可能」「軽作業なら可能」という条件付きもOK。
② 会社の産業医と面談
→ 職場環境・業務内容・負荷の調整を確認。
③ 配置転換・時短勤務・業務量の軽減などの調整
→ 会社には「安全配慮義務」があり、配慮は必要。
④ 試し出勤(リワーク)
→ いきなりフルタイムではなく“リハビリ的”に戻る方法。
⑤ 正式復帰
この流れが一般的です。
復職は“ゴール”ではなく、再スタートのプロセス。
焦る必要はありません。
第4章 退職しても制度は続く
――辞めた瞬間にすべてが消えるわけではない
休職が長引き、「退職」を選ぶ人もいます。
しかし、退職=無保護 ではありません。
以下の制度が継続します。
① 傷病手当金は退職後も支給される(条件付き)
退職日までに、
- 傷病手当金の支給要件を満たしている
- 健康保険の資格を喪失する前に「労務不能」であった
この2つを満たせば、
退職後も最長1年6か月まで受給できます。
③ 障害年金
メンタル不調が長期化している場合、
- うつ病
- 双極性障害
- 適応障害
- 統合失調症
などの症状により、
障害年金の対象となるケースがあります。
会社を辞めても申請できます。
④ 失業給付(求職活動可能になってから)
医師が「働ける」と判断した段階で、
ハローワークで手続き可能です。
※休職直後は「働けないため」申請できません。
第5章 罪悪感はいらない――制度は“あなたを支えるため”にある
メンタル不調で休職をすると、
多くの人が罪悪感に苦しみます。
- 「甘えているんじゃないか」
- 「迷惑をかけたくない」
- 「自分が弱い」
でも制度の視点から言えば、
休職は“特別扱い”ではなく、制度に用意された正当なプロセス。
あなたが悪いわけではありません。
社会保険は、
「働けない時期を支える」ために存在しています。
使うことは、わがままではなく権利です。
おわりに
もし今、メンタル不調で会社に行けずに悩んでいるなら、
まずは自分を責めることをやめてください。
制度はあなたを支えるためにあります。
会社に迷惑をかけているのではなく、
あなたが“治るための時間”を社会全体が支えているのです。
休むことは、逃げではありません。
治すことは、立ち直るための第一歩です。
焦らず、制度を使いながら、ゆっくり回復していきましょう。
