はじめに
求人票でよく見かける
「固定残業代○時間分を含む」
という表記。
これを、多くの人が“実際の残業代が出ない制度”だと誤解しています。
しかし、法律上は
みなし残業(固定残業代)は“違法ではない”。
ただし、適法になるための条件は非常に厳しい
というのが正しい理解です。
この記事では、
みなし残業の正体と、
合法と違法のボーダーライン、損しないための確認方法を
社労士の視点からわかりやすく解説します。
第1章 「みなし残業=違法」ではない
――本当の問題は“制度そのもの”ではなく“運用”
まず重要な結論から。
✔ みなし残業は “制度” として違法ではない
✔ しかし 適法にするための条件を満たしている企業は思ったより少ない
✔ 結果として “違法運用の横行” により、多くの労働者が損をしている
つまり、問題の本質は
「みなし残業=悪」ではなく、「正しく運用していない会社が多い」
という点にあります。
第2章 みなし残業が“適法”になるための3条件
固定残業代は、
労働基準法で認められた正当な仕組みです。
ただし、適法になるためには次の3条件を同時に満たす必要があります。
① 「固定残業代」が明確に区分できる
金額・時間数の明示は必須ではないが、
明確に区分できる必要はある(自分で計算ができるように)
ただし実務上は、金額・時間数の明示は求められるといってよい
② 実際の残業が“みなし時間”を超えたら追加で支払うこと
最も誤解されているポイント。
固定残業代は“上限”ではない。
実際の残業が超えれば追加で残業代を払う必要がある。
例
- 固定残業40時間分を支給
- 実残業50時間だった
→ 10時間分の残業代を別途支給しないと違法
(割増率25%/休日・深夜なら更に増加)
ここを守っていない会社が非常に多い。
第3章 みなし残業で“実際に損する”ケース
あなたが損しているケースは、
以下のどれかに当てはまります。
① 固定残業代に「過大な時間数」を入れ込んでいる
例:
- 月45時間(法定上限ギリギリ)
- 月60時間(事実上の買い叩き)
- 月80時間(完全に違法水準)
こうした求人は、
基本給を下げ、残業代を“最初から払わない仕組み”を作る典型例。
✔ 判例の傾向
固定残業時間が「著しく高すぎる場合」、
実質的には 基本給の切り下げ+残業代ゼロの脱法行為 として
無効と判断されることが多い。
② 固定残業代が“理由なく”撤廃・変更される
賃金制度変更の名のもとに
- 固定残業代の削減
- 基本給の減額
- みなし時間の増加
を行うケースがあり、違法となる可能性が高い。
③ 「残業代を払わないための道具」として使っている
固定残業代を
「払わない理由」や「残業させ放題の免罪符」と誤解している企業が多く、
これが違法の温床になっている。
第4章 あなたが損をしないための“チェックリスト”
求人票・雇用契約書・就業規則を確認するときは
次の項目がすべて明示されているか確認してください。
✔ ① 固定残業代の金額
□ 明確に区分されているか
□ 「○万円」ではなく“その内訳”が書かれているか
✔ ② 固定残業代の時間数
□ 明確に書かれているか
□ 法定上限(月45時間)を超えていないか
□ 過大な時間設定になっていないか
✔ ③ みなし超過分の“追加残業代”の規定
□ 超過した場合の支払い方法が明記されているか
□ 深夜・休日の割増率が説明されているか
□ そもそもその会社が払った実績があるか
✔ ④ 評価制度・固定残業代の改定ルール
□ 毎年の見直しの基準が明記されているか
□ 労働条件通知書と整合性があるか
第5章 違法の匂いがする会社を見抜く3つのサイン
みなし残業を使っていても、
良心的な会社と脱法的な会社がある。
以下に当てはまる場合はとくに注意。
① 求人票の給与欄が不自然に高い(基本給が低い)
→ 固定残業代で“盛っている”典型例
② 固定残業時間が40時間を超えている
→ そもそも合法運用がほぼ不可能
③ 「うちはみなしだから残業代は出ない」と言われる
→ 100%違法
→ 相談すればほぼ確実に取り戻せる
第6章 もし“違法みなし残業”に遭遇したら
――言いにくい人のための現実的ステップ
みなし残業の問題は、
「会社と対立したくない」という気持ちがハードルになります。
そこで、対立しない言い方と
制度的なアクションの両方を整理します。
① 言い方のポイント(対立を避けつつ)
「固定残業代の説明をもう一度確認したいのですが…
契約書に書かれている時間数と実際の残業が合わないようで…」
これは“権利主張”ではなく
事実確認の形にするのがポイント。
② 書面で確認すべきもの
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 就業規則
- 賃金規程
- 給与明細(数ヶ月分)
③ 相談先(優先順位つき)
- 社労士(個別労働紛争に強い専門家)
- 労働局相談コーナー
- 労働基準監督署
- 法テラス・弁護士
あなたが関わる案件であれば、
ほぼ間違いなく適切な着地点が作れるはずです。
おわりに
みなし残業は、
“制度”としては合法です。
しかし、
労働者が制度を知らないことを前提に
都合よく運用されているケースが極めて多い
というのが現実です。
あなたが損しないための最善の方法は、
制度を知ること。
そして、企業が何を「隠そうとしているか」を見抜くこと。
労働者に有利な会社は、
固定残業代を“透明に説明する会社”です。
これを知っているだけで、
あなたの選択肢は大きく広がります。
