はじめに
「上司の注意が厳しいだけでパワハラなのか?」
「自分が敏感すぎるのかもしれない」
多くの人が、職場でそんな迷いを抱えています。
けれども、パワハラには法律上の定義があり、
同時に職場ごとの“空気”による判断も存在します。
この2つのズレが、被害者と加害者、そして会社のあいだに深い溝を生むのです。
第1章 “パワハラ”という言葉の一人歩き
「ちょっと注意しただけで“パワハラだ”と言われた」
そんな声を上司からもよく聞きます。
確かに、「パワハラ=何をしてもアウト」というわけではありません。
ただしその逆に、「指導のつもりならセーフ」でもない。
法律では、
- 優越的な関係を背景にした言動で、
- 業務上必要かつ相当な範囲を超え、
- 労働者の就業環境を害すること
――この3つの要素を満たすものを「パワハラ」と定義しています。
つまり、“どちらか一方の主張だけでは決まらない”のです。
第2章 “本人の感じ方”だけでは決まらない理由
「自分がつらいと感じたならパワハラでは?」という意見もあります。
でも、法的には“主観”だけではなく、“客観的事実”が問われます。
たとえば、同じ発言でも
・全員の前で繰り返し怒鳴られた
・他の人の前では穏やかだった
この違いで、評価はまるで変わります。
“客観的に見て職場環境を害しているか”がポイントです。
だからこそ、感情的に訴えるよりも、記録・日時・言葉を整理することが大切になります。
第3章 会社が「パワハラではない」と言い張る構造
よくあるのは、会社が「指導の範囲内です」と主張するケース。
なぜか?――それは、パワハラを認める=会社の責任になるからです。
多くの企業には「相談窓口」や「内部通報制度」がありますが、
調査の目的が“再発防止”であって“被害救済”ではないことも多い。
被害者が「会社は何もしてくれなかった」と感じるのは、
制度の目的がそもそも違うからなのです。
第4章 “あなたが決める”とはどういうことか
「会社が認めてくれないなら、何もできない」――そう思う人もいるでしょう。
けれども、動くかどうかを決めるのはあなた自身です。
記録を残し、第三者に相談し、必要に応じて社労士や労働局の救済制度を使う。
感情を整理しながら、制度の言葉で語ることが、最も効果的な“防御”になります。
私が見てきた中で、最も前に進めた人たちは、
「怒り」をぶつけるのではなく、「事実」を整えて動いた人たちです。
第5章 “線を引く勇気”が、職場を変える
パワハラ問題で本当に問われているのは、「誰が悪いか」ではありません。
“どこに線を引くか”です。
その線を知っておくことで、
あなた自身「加害者」にも「被害者」にもならずにすみます。
そして、線を引く勇気を持つ人が一人増えることで、
職場全体の空気が少しずつ変わっていくのです。
まとめ
パワハラは、会社が決めるものでも、上司が決めるものでもない。
“事実”と“線引き”で決まる。
そして、その線を理解して行動することが、あなたを守る最初の一歩です。
